「仙崎の魚の文化を残したい」大小早川商店のおはなし(後編)

山口県長門市・仙崎の魚屋「大小早川商店」インタビュー。後編は家業を継いだ早川さんが歩んできた道と、思い描く「魚屋の未来」についてお話いただいています。最後までぜひご覧ください!

取材/撮影:村尾悦郎

 

一難去ってまた一難

 

―四代目となる早川さんの時代にはどんなことをされたんでしょうか?

早川さん
早川さん

親父の時代と被るところもあるんだけど、ふぐの加工事業がヒットして工場を構えたんだけど、いろいろ問題が出はじめたんですよ。

 

―どんな問題でしょうか?

早川さん
早川さん

だんだんと仙崎のふぐの水揚げ量が少なくなってきて。それで、他の市場からも買ってくるんですけど、シーズン中は業者同士で取り合いになるから質の低いものが混ざるんですよ。

 

―質と量、どちらの確保も難しくなったんですね

早川さん
早川さん

はい、やっぱりふぐって特別な食べ物で、年に何回も食べるものじゃないじゃないですか。そこに自信を持って「おいしい」と言えないものを出すのが心苦しくて。それで、養殖のとらふぐに徐々に切り替えていったんです。

 

―今も取り扱われている、青海島で養殖したふぐですね

早川さん
早川さん

そうです。それ以前は「養殖のふぐ」というと商品にならないような質のものだったんですが、その頃になると技術も上がってきて、おいしいものができるようになっていたんですよ。ただ、ここにも問題があって。

 

―なんでしょうか?

早川さん
早川さん

当時の養殖のふぐは値段が高かったんです。原価が上がって、利益がどんどん少なくなっていって。それを解決するために、今度はふぐの養殖にも乗り出したんです。

 

 

―自ら生産されだしたんですか?

早川さん
早川さん

そう、ふぐの養殖を専門にする会社を立ち上げて、2006年頃から養殖をスタートさせました。

 

―そうして問題をひとつひとつ解決していったんですね

早川さん
早川さん

はい。でも、正直、この時期が人生で一番忙しい時でしたね。魚屋と養殖、どちらもやるわけですから、もう、寝られませんでした(笑) 利益は上がったけど、本当にしんどかったです。……でも、また問題が起こるんです。

 

―さらに問題ですか?

早川さん
早川さん

2011年頃から国内でも養殖業者が増えてきて、さらに中国産のふぐも入ってきて供給過多になるんです。ついには原価割れしてしまって。

 

―市場の様子が変わったんですね

早川さん
早川さん

そうなると、もうウチはやっていけないから養殖事業は別の会社に譲渡して、あらためてふぐをその会社から仕入れることにしたんです。それが2015年ぐらいでしたね。

 

―本当に大変だったんですね

早川さん
早川さん

でも、逆に僕はいろんな意味で楽になりました(笑)  体力的には限界でしたから。それで今は、工場がある強みを活かして製造と小売りに力を入れています。

 

 

―大小早川商店はインターネットでの販売もされていますよね

早川さん
早川さん

はい。はじめは、全部僕がやっていたんですよ。自社のホームページを作って、楽天に登録して、手探りで販売をはじめてね。

 

―社長自らやっていらしたんですか?

早川さん
早川さん

そうなんです。当時はまだ、ふぐのインターネット通販に参入している業者が少なかったから、結構売り上げが上がりましたね。

 

―なんというか、常に挑戦し続けている印象ですね

早川さん
早川さん

そう。結局、一貫してることは「魚に関して何でもやる」ってことなんですよね(笑)

 

 

 

―時代の変化に対応する秘訣はなんでしょうか?

早川さん
早川さん

自分のモチベーションもあるけど、なにより、「周りの人との関係性」だと思います。

 

―それはどういうことですか?

早川さん
早川さん

商売って、自分の考えだけだと中々うまくいかないんです。そこで僕が大事にしているのが「信頼し合える人からもたらされる情報」で。その情報と自分のアイディアが、ある日、ピタッとつながることがあるんですよ。そうやって新しい商売を作って、また新しい道を見つけていく。その繰り返しで続けていますね。

 

「魚屋」の未来

 

―最近の仙崎市場は漁獲量が減少傾向にあるそうですが、どう思われていますか?

早川さん
早川さん

実際に魚が少ないのもあるんですが、「魚に携わる人が少なくなってる」というのも大きな原因だと思うんです。

 

―漁師さんや魚屋さんたちですか?

早川さん
早川さん

はい、それと加工する方々もね。でも、悪いことばかりじゃなくて、実は、今は辞めていく人が多いので、魚や仕事の取り合いにはあまりならないんです。だからウチは今、営業をせずに仕事を「待つ」こともあって。

 

―どういうことですか?

早川さん
早川さん

「こういうことはできんやろうか?」って相談されることがあるんですよ。ウチは仕入れ、加工、調理、宅配などいろんなことができますから。儲けは少なくても、地域から望まれる仕事であればできる範囲で受けていこうと思っています。

 

―ある意味「ボランティア」な仕事を受けているんですか?

早川さん
早川さん

そうです。なんというか、「この町の『魚の文化』を残したい」という思いがあるんですよ。僕は「仙崎の魚」で生きてきた人間だから、その文化がなくなるっていうことは商売……もっと言えば自分自身がなくなるということなんです。だから、「貢献しないといけない」という気持ちがあります。

 

 

―それは義務感のような?

早川さん
早川さん

はい。でも、それが重苦しいばかりじゃなくて。仕事の中で、また新たな関係性ができて、新しい商売につながったりもしますからね。

 

―そんな早川さんが、今一番力を入れていることはなんですか?

早川さん
早川さん

やっぱり「仙崎の魚を売る」っていうことが一番に来ます。それと若い職人さんを育てながら、いろんなお客さんのニーズに合わせて売っていくということですね。

 

―これから、商売をどのように展開していきたいと思われていますか?。

早川さん
早川さん

これからは「売り方」自体が変わっていくように感じていて、「商品」自体はもちろんだけど、その「背景」が一層重要になるように思います。値段だけで比較してお得なものを買うのではなく、ちゃんとしたものを提供し、知識を持って説明して信頼を得る。そうして商品を「適正な価格で買ってもらう」努力をしていきたいです。

 

―そのために、どんなことが必要だと思われますか?

早川さん
早川さん

「この魚がなぜおいしいのか?」とか、「どんな食べ方がいいのか?」といった情報をしっかりと知らせることですね。今はネットやSNSの技術で便利になっているから、そういった情報を店頭などでも簡単に取得できるようにして、お客さんの「信用」を獲得していきたいと思っています。

 

▲「四代目 大小」の売り場をチェックする早川さん。「雑然としている」、「生臭い」といった魚屋のイメージを払拭するように「綺麗」で「おいしそう」なお店作りを心がけているという

 

―「なぜこの値段なのか」をしっかりと伝えていくということですね

早川さん
早川さん

そう。安易に自分を安売りして、チープな仕事ばかりやってると、良い仕事ができなくなってしまいますしね。

 

―それはどうしてですか?

早川さん
早川さん

安いものはそれなりに、良いものはそれだけ緊張感をもって仕事をするじゃないですか。たまにディスカウントすることがあっても、良い仕事をする機会を作らないと、新たな仕事って入ってこないんです。

 

―なるほど

早川さん
早川さん

だから少し高くても、「早川さんに任せたら良いものが食べられる」って思ってもらって、正当な対価をいただきたいと思います。それが商売の基本だと思うんです。

 

―「安さ」ばかりでは、いずれ仕事自体がなくなってしまうということですね

早川さん
早川さん

はい。そうしないと、本当にみんな続けられなくなっちゃうと思いますよ(笑)

 

 

―そんな早川さんを突き動かす思いはどこから来ているのでしょうか?

早川さん
早川さん

ずっと覚えてる景色があって、それが自分の原点になっています。僕が小学校低学年の頃、夜中に目を覚ましたら、両親は市場に出ていて家に誰もいなくて。僕は寂しくなって、市場まで親を探しに行ったんです。

 

―一人でですか?

早川さん
早川さん

はい。泣きながら、パジャマ姿でね(笑) で、市場に着いたらビックリしたんです! ものすごい量の魚が揚がって、そこら中にトロ箱が並べられて、上からは煌々とライトの光が照りつけて、その中で業者やセリ人が動き回って商売してる。

 

―活気あふれる市場の様子を目にされたんですね

早川さん
早川さん

両親も見つけたんだけど、夢中で働いていて。その時の市場はお祭りなんかよりもずっと活気があって、その景色に圧倒されたんです。

 

▲現在の仙崎市場の様子

 

―見たことのない世界だったんですね

早川さん
早川さん

そう。真夜中なのにワイワイガヤガヤして、不思議と楽しい感じがして。僕は泣いてたのも忘れて、ただただ「すげえ!」と立ち尽くして……で、そのまま帰っちゃったんです(笑)

 

―その景色が心に焼き付いているんですね

早川さん
早川さん

はい、だから「継ぐ気はなかった」って言ったけど、どこかで「やりたい」っていう気持ちもあったんだろうなと思います。

 

―仕事自体に悪いイメージは持たれていなかった?

早川さん
早川さん

そうです。魚屋が「良い仕事」だという思いはずっとあって、その景色が今も僕を動かしているんだと思います。

 

―これまでの仕事を振り返って、心境の変化を感じることはありますか?

早川さん
早川さん

「変わった」というか、今は「原点に戻ってきた」感じがしています。単純に商売だけじゃなく、今話した景色を元に「この町がにぎわって欲しい、活気があってほしい」という気持ちで動けるようになってきたというか。

 

―「魚」という視点から町を盛り上げる存在を目指されている?

早川さん
早川さん

はい。この気持ちを次の世代に伝えていきたいし、僕自身もできる限り続けていきたいと思っています。

 

 

Information

■四代目 大小

・住所:山口県長門市仙崎4297-1
・センザキッチン キッチン棟内
・定休日:第2木曜日及び元旦(8月・祝日は営業)
・営業時間:9:00~18:00(4~10月)/9:00~17:00(11~3月)
※大小早川商店の詳細、インターネット販売に関しては公式サイトをご覧ください

大小早川商店公式サイト
四代目大小公式サイト(道の駅センザキッチン公式サイト内)