“生きてる匂い”を感じながら、ゆっくりおしゃべり。「bliss point」のおはなし(第5回)

山口県長門市の油谷・宇津賀(ゆや・うつか)地区の立石(たていし)に、「海のそばのカフェ bliss point(ブリスポイント)」はあります。このお店で楽しめるのは、美しい海の景色やおいしいコーヒーだけでなく、お客さんたちと店主・遠矢美和さんが繰り広げる楽しい“おしゃべり”。遠矢さんの笑顔に誘われて、地元だけでなく県内外からも多くの方が訪れます。そんな遠矢さんに、大切な友達「ちぃちゃん」と共に歩んだお店作りの道、そして立石の方々との優しい交流のお話など、たくさんのエピソードを聞きました。

 

 

―遠矢さんは、はじめてのお客さんによく「bliss pointができるまで」を話されていますよね

遠矢さん
遠矢さん

「bliss物語」ですね。自分から話すこともあるんですが、「どうしてこんなところにお店を作ったの?」って本当によく聞かれるんですよ。それで私がちぃの話をしたら、「あなたが頑張っている理由がわかったよ」、「生きてるって素晴らしいことだね」って、思いを受け取って帰ってくれるからうれしいんです。

 

―ちぃさんが残した思いですね。

遠矢さん
遠矢さん

そうです。「生きてるってすごいんだよ」っていう気持ち。私も、野菜をもらったりして「こんなありがたいことがあるんだな」ってうれしくなったり、「お客さん来よるかね?」っていう言葉に「心配してくれてうれしいな」って思えたり。ちぃのおかげで、小さな感謝の気持ちに気づける心になれたことがお店をはじめた一番の収穫なんです。そうして、お店に来てくれた人もそれに気づける場所になったらいいなって。

 

―今の生活の様子はどんな様子ですか?

遠矢さん
遠矢さん

お店がある時は長門に来て、それ以外は小倉にいて……いわゆる二拠点生活です。父が家にいて、息子もいるからごはんをつくったりとか家事をしたりとか、向こうの生活も大事なんですよね。

 

―主婦もしっかりやって、お店もあって……大変ではないですか?

遠矢さん
遠矢さん

でも、blissをやってるこの場所は、海がきれいで、知らない人と会えて、ワクワクして。本当に「人生のご褒美」と思えるような楽しい時間が過ごせるんです。だから、私としては今、良いバランスで生活できてると思っています。

 

―忙しいと感じることはありますか?

遠矢さん
遠矢さん

忙しいのは忙しいけど……先生をやってる時の方がもっと大変だったかな?(笑)

 

 

 

―なるほど(笑) では、お店ができてからの3年で、変化を感じることはありますか?

遠矢さん
遠矢さん

私自身というよりは、家族全体での時間の使い方が変わりましたね。こっちでお店して、片付けして帰ったら夜の7時とか8時になるんです。はじめの頃、父は早くご飯が食べたくてイライラしてたし、私も焦ったりしました。作り置きをしていても、父はみんなと食べたいから待っていたり。

 

―その様子が変わった?

遠矢さん
遠矢さん

はい。だんだんと、無理をして待つんじゃなく、晩酌しながら待ってくれるようになったり、洗濯物を取り込んでくれたり、父なりに合わせてくれるようになりましたね。そんな風にして、だんだんと家族内でバランスが取れるようになりました。

 

―家族のみなさんも、お店をやられてる遠矢さんのペースをつかんでいったんですね

遠矢さん
遠矢さん

そうなんです。子供たちもいろいろ自分でやれる年になったから、私が遅くなったら自分でごはんをつくったりね。

 

―先生をされていた頃とは違いますか?

遠矢さん
遠矢さん

はい、先生の頃は私一人がシャカリキになって「あれもやらないけん、これもやらないけん!」って、慌ただしさがあったんです。子供たちも部活や勉強と……家の誰もが時間に追われるような生活で。だから今、楽しいんです。

 

―今の生活サイクルの中で一番の楽しみってなんですか?

遠矢さん
遠矢さん

私ね、「明日、blissの日だな」って思うとワクワクするんですよ。だから今、一番楽しいのはこの「bliss point」で過ごす時間です。「仕事に行く」っていうよりも「blissに行きたいな」って思うんです。

 

 

―それは月・木・土と、週三日の営業だからというのもありますか?

遠矢さん
遠矢さん

そうですね。もし営業が毎日だったら、仕込みがどうとか、移動時間とかで、しんどい思いをしたかもしれないです。この週三日っていうペースがベストですね(笑)

 

―「週三日」というのはお店を作った当初から決められていたんですか?

遠矢さん
遠矢さん

週三日は当時、子供が二人とも部活があったことが大きいです。お店って土日がかき入れ時だけど、週末は子供たちの応援に行きたかったんです。だから土曜は開けて、日曜は閉めると決めたんです(笑)

 

―そこは譲れないと(笑)

遠矢さん
遠矢さん

それで、月曜は知り合いの美容師さんから「月曜は行けるから開けてよ」って頼まれたから開けて(笑)。木曜日は、この周辺のお店が木曜日休みだからやろうかなって、そんな感じで決めていきました。中々覚えにくいけど、いつか定着したらなって思いながら変えずに来ましたね。

 

―だんだんと定着しているように思います。

遠矢さん
遠矢さん

そうなんです。やってる日は少なくても、「来たいと思ってれるお客さんは日程を合わせてちゃんと来てくれるんだな」って分かりましたね。

 

―お店をやっていて苦労することはありますか?

遠矢さん
遠矢さん

そうですね……お客さんが多ければ多いほど、一対一で話す時間も少なくなって。特に「bliss物語」を話せたお客さんと、話せなかったお客さんではこのお店から持って帰れる思い出の量が全然違うだろうなって思うんですよね。

 

―「思い出の量」ですか、おもしろいですね

遠矢さん
遠矢さん

そうですか?(笑) 最初は要領が分からなくて、時間がないのに無理にしゃべったりとか、他の方を待たせてしまったりとか、中途半端で伝わらなかったりとか……そういうのが辛かったですね。

 

―今は折り合いがついていますか?

遠矢さん
遠矢さん

はい、人間慣れるもんですから(笑) お客さんが片付けを手伝ってくれることもあって。常連さんの中には「美和さんがお客さんとしゃべる時間をどれだけ作れるかが私の使命なの!」ってお皿洗いを買って出てくれる方もいます。とにかく、雑に話してしまうのが辛かったので、ありがたいですね。

 

―「bliss物語」もメニューのひとつなんですね。

遠矢さん
遠矢さん

そうそう。「bliss物語」もお客さん同士のふれあいとも全部含めて、「bliss point」というお店で、そこを楽しんで帰ってもらいたいと思っています。

 

―地域の方と触れ合っていて、遠矢さんが感じる長門の魅力ってなんですか?

遠矢さん
遠矢さん

「相手の喜ぶ顔が見たい」っていう気持ちだと思います。その思いだけでコミュニティができてるように感じるんですよ。魚釣りをするのも「この魚を近所の人に食べてもらいたい」とか、野菜をもらったから「漬物を作ってお返ししよう」とか。そこにはお金が介在せずに善意だけ、気持ちだけでやり取りが成立しているんですよね。

 

―そう思うようになったできごとはありますか?

遠矢さん
遠矢さん

以前、近所のおばあちゃんから野菜をもらって。私が「ありがとう!」って喜んでたら、そのおばあちゃんが郵便局で「遠矢さんがありがとうって言ってくれてすごくうれしかったの」っていう話をしたみたいなんです。

 

―本当にうれしかったんでしょうね

遠矢さん
遠矢さん

そしたら郵便局長さんから電話がかかって。「遠矢さん、さっきおばあちゃんが『うれしかった』って言ってましたよ。おばあちゃんに優しくしてくれてありがとうね」って。すごいでしょう?

 

 

―はい。優しい気持ちしかない(笑)

遠矢さん
遠矢さん

ねぇ(笑) 私はただ「ありがとう!」ってもらっただけなのに、その気持ちも「ありがとう」って帰ってくるなんて、本当にそういう土地柄、人柄なんだろうなって思いました。

 

―では、最後になりますが、これからのbliss pointの展望を聞かせてください

遠矢さん
遠矢さん

blissはまだ3年だけど、20年、30年後に「あの時面白かったよね」とか「カブトムシ小屋作ったね」とか、ここに集まる人たちがみんな歳をとってもそのまま来てくれたりして。私も70になってもこうしてコーヒー淹れたり……そういうことがしたいですね。

 

―そう思ったきっかけはありますか?

遠矢さん
遠矢さん

大分県の耶馬渓というところに「木精座」っていう、私が大学生の時によく通ってた素敵な喫茶店があるんですよ。つい最近も行ってみたらやっていて、30年の時を経てもそのままで。

 

―思い出のお店なんですね

遠矢さん
遠矢さん

店主の方もそのままで、お客さんたちもちょうど私と同年代の方がいらっしゃって。お話してたら「もう30年通ってる」って聞いて、それが私、すごくうらやましくてね。

 

―そういうお店を目指していきたい?

遠矢さん
遠矢さん

そうなんです。時間が経って、いろんなことがあって、仕事も変わったりしてるかもしれないけど、「またみんなで集まりたいな」って思える場所。だから“細く長く”続けていきたいんです。新しい人も加わりながら、ずっとおしゃべりしながら過ごしていきたい。それが願いですね。

 

―「このままでいたい」と?

遠矢さん
遠矢さん

そうですね(笑) そりゃあ、いろいろな事情が起きて休止する時期ももしかしたら来るかもしれない。でも、全国にいるblissに関わった人たちが、ちぃの記憶をたどって「帰ってくるところ」として続けていきたいです。

 

 

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Information

「海のそばのカフェ bliss point」

●場所:山口県 長門市 油谷後畑 2237-6
●営業日:月・木・土
●営業時間:11:00~16:00
公式Facebookページ

※「海のそばのカフェ bliss point」は自転車用のラックや空気入れ、ワイヤーロックなどが設置された「サイクルフレンドショップ」です。詳細はこちら

▲人気メニュー「ビーフカレー」

▲日置のスイカを使った「suikaバー」(チョコチップのタネあり/タネなし)など、季節限定のメニューも用意されている