“生きてる匂い”を感じながら、ゆっくりおしゃべり。「bliss point」のおはなし(第3回)

山口県長門市の油谷・宇津賀(ゆや・うつか)地区の立石(たていし)に、「海のそばのカフェ bliss point(ブリスポイント)」はあります。このお店で楽しめるのは、美しい海の景色やおいしいコーヒーだけでなく、お客さんたちと店主・遠矢美和さんが繰り広げる楽しい“おしゃべり”。遠矢さんの笑顔に誘われて、地元だけでなく県内外からも多くの方が訪れます。そんな遠矢さんに、大切な友達「ちぃちゃん」と共に歩んだお店作りの道、そして立石の方々との優しい交流のお話など、たくさんのエピソードを聞きました。

ゆっくりしながら、人の温かさを感じれる場所

 

―ところで、お店の名前の由来はなんですか?

遠矢さん
遠矢さん

ちぃちゃんが「『bliss point』っていう名前を外国人の友達から紹介されたの」って話していて。「bliss」はHappinessの古代英語で“幸せ”。「point」は“場所”……つまり「幸せの場所」という意味です。

 

―ロゴもちぃさんが?

遠矢さん
遠矢さん

はい、仲良し4人が酉年だったので鳥と、私たち4人を表す四葉のクローバーを入れて、ちぃちゃんが描いてくれました。

▲ちぃさんが描いたbliss pointのロゴ

 

―お店の改修はどんな様子で進みましたか?

遠矢さん
遠矢さん

当初はちぃも何度かこっちに来て、メニューを考えたり漆喰を塗ったりしてたんですが、2016年の4月頃から急に具合が悪くなって。だんだん動けなくなり……最後、面会謝絶になったですね。みんな、ちぃに「なにかしてあげたい」って思うんだけど、もう、なにもしてあげられなくなっちゃって。

 

―そうだったんですね

遠矢さん
遠矢さん

でも、そうなる前にちぃが「この油谷の店が自分の生きる希望の一つだ」ってお見舞いに来てくれる人に話していて、私は私でFacebookでここを改修する様子をアップしてたんです。そしたら、高校の同級生たちや、ちぃの中学の同級生の皆さん……いろんな人たちが「ちいが大事にしてる『bliss point』に、僕たちが何かできることある?」って声をかけてくれてね。

 

―そのときにちぃさんのためにできることがお店を作ることだったんですね

遠矢さん
遠矢さん

はい。私が小学校で一緒に働いてた先生たちも、差し入れを持って応援に駆けつけてくれて。漆喰塗りとか壁紙貼りとか、機材を持って来て大工仕事してくれたり……いろんな人が来てくれて、頑張って作ったんです。

 

―オープンはいつでしたか?

遠矢さん
遠矢さん

2016年の6月6日です。はじめは夏頃の予定だったんですが、ちぃの具合が悪くなってきたので、早めたんです。それで、6月6日にオープンしようと頑張ってたんですけど……結局、彼女は5月5日に亡くなったんですよ。

 

―オープンには間に合わなかったんですね……

遠矢さん
遠矢さん

はい。でも、お店も8割方完成してたから、手伝ってくれていたみんなも一緒になって、なんとか最後までやりきって、やっとオープンにこぎつけたんです。オープン前日のパーティには40人近く来てくれましたね。そのあたりで、ちょっと考えはじめたんです。

 

▲プレオープンパーティの様子

 

▲仲良し4人組

 

―どんなことでしょうか?

遠矢さん
遠矢さん

それまではちぃが生きていたからこそ突っ走れたところもあって。「とにかくちぃのために、『お店をオープンする』っていう夢を追ってることが大事だ」って思ってたから。

 

―「店をつくる」という夢自体は叶ったから、気持ちが立ち止まった?

遠矢さん
遠矢さん

そうです。みんなも招いたし、ちぃの夢も私の夢も叶った。仲のいい子には「もうオープンできたから、さすがに私もお金が続かないし、家族もいるし、いつお店をなくすかわからないよ」って言ってたんです。

 

―それが、今でもお店が続いているのはなぜですか?

遠矢さん
遠矢さん

友達が、「美和ちゃんが楽しいって思えるところまで続けてね」って言ってくれたことと、父に「美和のそれは遊びだと思って、あまり無理するなよ」って言われて、反骨精神が湧いてきちゃったんですよ。 「遊びだけど遊びじゃないわよ!」って(笑)

 

―なるほど(笑)

遠矢さん
遠矢さん

その気持ちを主人も汲んでくれて、「ここはもう人生のご褒美と思って、お金では買えない、人との繋がりとか、贅沢な時間を過ごせるんだから。お客さんが来なくても本を読んだり、絵を描いたりして、自由に過ごしたら?」って言ってくれたんです。

 

―ご主人の理解もあったんですね。

遠矢さん
遠矢さん

はい、「ああそうだな」って私も思って。この「bliss point」は無理してあくせくして、イライラしながら仕事するところじゃないなって。そう思ったらちぃの言葉を思い出したんです。

 

―どんな言葉ですか?

遠矢さん
遠矢さん

「夜眠るときに『このまま目覚めないんじゃないか』って怖かった。それで次の朝起きたら、『ああ、今日も生きてるな』ってうれしく思う。だからbliss pointを、あたりまえのことがあたりまえにできる生活を『ありがたい』って思える場所にしようね」って。

 

 

―ちぃさんの思いを実現しようと思ったんですね

遠矢さん
遠矢さん

そうです。「bliss pointは、来た人達がゆっくりしながら、人の温かさを感じれる場所になってくれればいいな」って。ちぃのおかげでそう思えたから、気持ちを新たにやりはじめましたね。

 

―お店づくりについて、今振り返ってどう感じますか?

遠矢さん
遠矢さん

お店を作ることで私自身が一番救われたと思っています。もちろん、「ちぃのために何かしたい!」って思っていたんだけど、もし、「みんなでお店を作る」っていうことがなかったら、末期がんのちぃには、あんなに気安く何度も連絡できなかったと思うんです。

 

―お店を作ろうとしたからこそ、一緒の時間を過ごせた?

遠矢さん
遠矢さん

そう。だから勝手なんだけど、ちぃが亡くなった時に後悔はなかったんです。一緒に時間を過ごして、いろんな人と出会えて、「ちぃのためにやり遂げた」っていう記憶が残ったから。それが私を救ってくれたんです。

 

>>第4回:「みんなが『自分の店だ』と思ってくれてるんですよ(笑)」

<<第2回:「“生きてる匂い”がするよ」

 

Information

「海のそばのカフェ bliss point」

●場所:山口県 長門市 油谷後畑 2237-6
●営業日:月・木・土
●営業時間:11:00~16:00
公式Facebookページ

※「海のそばのカフェ bliss point」は自転車用のラックや空気入れ、ワイヤーロックなどが設置された「サイクルフレンドショップ」です。詳細はこちら

▲人気メニュー「ビーフカレー」

▲日置のスイカを使った「suikaバー」(チョコチップのタネあり/タネなし)など、季節限定のメニューも用意されている